“能楽” 日本の伝統演劇の世界へ。

“能楽”という言葉を知っていますか?

能楽とは古くから伝わる日本の伝統芸能の一つであり、現在知られている姿になって以来、600年以上もの間受け継がれてきました。2008年にはユネスコ無形文化遺産にも登録された歴史ある芸能であるにも関わらず、今日の日本ではその詳細が広く一般に知られているわけではありません。私自身も、大学で能楽部に出会うまでは能とはどのようなものか、全く知識がなかったものでした。

そこで今回は、短期間であれども能楽の世界に関わった筆者が、その実を紹介していきたいと思います。そもそも“能楽”という言葉は、”狂言“と“能”の二つを指す言葉です

狂言とは、庶民の生活を題材に作られた演劇で、現代でいうと漫才のようなものです。
一方で能とは、神様や超常現象などの神秘的でスピリチュアルなものを題材とした演劇で、。

日本版古典オペラと表現すると分かりやすいでしょうか。

筆者は主に能の方を嗜んでいましたが、能のことを知っていくにつれ、さほど興味がなかったのが嘘のように奥が深く美しい能の世界にどんどん引き込まれていきました。

能で主に使用される道具は、面(おもて)、装束、扇、作り物です。

面はその名の通りお面であり、能に欠かせない道具となります。役柄によって様々な顔が使用され、無表情な面は演者の表現力によって千の表情を持つ仮面となります。また一つ一つ職人が彫っているので、同じ種類の面だとしてもそれぞれ顔が違うのも面白いところです。舞台衣装である装束は、身分や性格などによって異なり、演じられる役によって柄や色が大まかに定められています。例えば、若い女性が演じられるときは朱色の衣装が使われたりするのです。鑑能する際にそういった知識があると、より能を深く楽しむことができます。見た目こそ華やかなものですが、着物を何枚も重ねて着るので、重いもので20キロを超えるものもあります。そんな着物を身に着けているにも関わらず優雅に舞う能楽師たちの姿は圧巻ですね。

そして次に扇ですが、これも欠かせない道具の一つです。扇も演じられる役によって柄が異なり、また盃やふすまなど様々なものを表現するための小道具となります。扇一つあればどんな役柄もこなせてしまうのです。主人公は基本的に舞台に出ずっぱりなので、できるだけ小道具を減らすための工夫なのかもしれません。対して舞台セットとなる大道具は作り物と呼ばれます。これも演目によって既に定められており、大きいものだとお寺にある鐘ほどのサイズのもの、もしくは全く使用しない演目も少なくありません。

筆者は、能は空間を作る演劇だと捉えています。

それは能の根本が神様に供えるためのものであり、演じられる舞台が最小限の狭さであり、道具が極端に少なく演技に重点が置かれているということからも感じられます。狭い舞台上に無限の空間を作り出す、もっと言うと、観客がその空間を感じられる魅せ方をする。十人いれば十通りの受け取り方があり、演者の解釈によって同じ演目でも魅せ方が異なります。 あらすじは決まっていてもそれ以上は各々が生み出すものであり、こういった柔軟性がこれまで人々を魅了し、600年以上もの間受け継がれてきた所以なのでしょう。

そしてこういった分かりにくさが、抽象的なものや感覚に敏感な日本人により生み出された日本の伝統文化であるのです。このように、能が決して分かりやすいものではないのは明らかですが、いざ踏み込んでみると奥が深い日本の伝統演劇の世界。しかし現在もなお存続の危機に瀕しているのも事実です。もっと多くの方に能の魅力を知ってもらい、これから日本だけでなく世界に羽ばたき、いつかカナダでも人気の演劇の一つになる日が来るのを願うばかりです。

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